青春りっしんべん

今回は、第65代花山天皇の話です。
花山天皇というと、最も有名なネタは『大鏡』に出てくる「騙されて出家して退位」というエピソードです。外孫である皇太子の懐仁親王*1を早く天皇にして自らは摂政の位に就きたい藤原兼家が、寵愛していた女御が亡くなって天皇が悲しみに暮れているのにつけ込んで、息子の道兼に「一緒に出家しましょ」とそそのかさせて出家させた(道兼は「父に出家前の姿を今1度見せてきます」と言って寺を抜け出し、そのままトンズラ)、ってヤツです。このときの天皇が泣きながら言った「朕ヲバハカルナリケリ」という言葉は著名です*2
ここで紹介するのは、そんな花山天皇の、若さはじけるエピソード。
花山天皇が即位したのは17歳のときでした。17歳って言っても、当時の年齢は数え年ですから、満換算すれば16歳。つまり、現代で言えば高1ってわけです。そりゃ、高1なんて年齢ですから、「年がら年中あっちのことばかり」考えていてもおかしくないわけです。「もう、風が吹いても立っちゃう」ぐらいのお年頃です(笑)。オトコとして。
そんな花山天皇即位式の際のエピソードが『古事談*3に載っています。
天皇即位式なわけですから、貴族やら、女官やら、そりゃもう「全員集合」の大掛かりなものであったことでしょう。で、その女官のなかの1人に、馬内侍という女性がいました。天皇、この女性を見て、何かがビビッときたのでしょうか、高御座*4に内侍を引っ張り込んで

忽ち以って配偶す。

つまり…えーっと、ヤッちゃったんですよ。即位式の最中にですよ、大勢の貴族や女官が厳粛な空気の中で式典を続けている最中にですよ、当の本人が始めちゃったんですよ、あっちのほうを。その絵を想像してごらんなさいなあーた。その場に居合わせたみんな、どんな顔して式を続けたんでしょうかね*5。個人的にはそっちのほうこそ観察してみたいところ。


ちなみに、この『古事談』という説話集、天皇家に関する下世話な噂話をそのまま掲載している例が少なくありません。称徳天皇道鏡のスキャンダルなんか「女帝は道鏡の男性自身の大きさにまだ満足いかなくて、山芋で男性自身の形を作り、それを使用していたところ、山芋が折れて体内に残り、それがもとで崩御した」なんて逸話紹介しているぐらいですから。なんともはや。

*1:後の一条天皇。考えてみれば、藤原定子藤原彰子の2人を「両手に花」にした、『気まぐれオレンジロード』みたいなヒト。

*2:以前、さる全集本の『大鏡』を読んだときに、この言葉に脚注がついていた。ただ一言「この言葉悲痛」。…わざわざつける必要のある脚注か? ただの感想文じゃねーか。

*3:鎌倉時代初期に成立した説話集。作者は源顕兼。

*4:たかみくら。即位や朝賀などの大礼の際に使用される天皇の座所。

*5:現代に例えて言うならば「社長のジュニアが、社長に就任するその式典の最中に、女性社員の1人を引っ張り込んで全社員の目の前で始めちゃった」ってわけですからね。…間違いなく捕まります、現代なら。