かの人の逝きし日も今日聖夜かな

今日は、日本史的には、孝明天皇崩御した日*1であり、大正天皇崩御した日*2であるわけですが、個人的には、もう1人、自分ともゆかりのあった方が亡くなった日として記憶している日でもあります。


ゆかりといっても、その方と直接お会いしたのは、たったの2回だけです。クイズ屋としてまだまだ駆け出しで、弱っちかった頃の自分は、その人が司会をする番組に出場することたびたびだったのですが、全国予選を通過した次の関門で門前払いを喰らうこと*3実に4回連続、5回目のチャレンジで初めてその人と直接お目にかかる機会を持つことができました。
初めての収録スタジオは何もかもが新鮮でした。第3ラウンドの「1vs1対決クイズ」*4に出場するために、TVで見るだけだった出場者用のボックスの中に誘導され、ヘッドホンをつけると、全く予想もしなかった展開が起こりました。
「えーっと、(CasparBartholin本名)さんの下のお名前の読みは『(同ファーストネーム)』さんでよろしいんですよね?」
ヘッドホン越しにそう自分に呼び掛けてきたのは、まごうかたなく、司会者のその人ご本人でした。驚きました。まさかいきなりチョクで話しかけられるなんて。てっきりやりとりはカメラ回ってからだと思ってたのに。「え? あ、はい」。ドギマギしてしまった自分は、しどろもどろな返事しかできませんでした。すると、
「緊張してますか? 大丈夫ですよ。落ちついてください」
その人は、そう僕に言葉をかけてくれました。
すごくありがたかったです。こんな一介のトーシロのクイズ屋風情にさえ、その人は分け隔てなく暖かい言葉をかけてくれた、何気ない一言だったけど、本当に嬉しかったのを今でも覚えています。そのかけてもらった言葉の甲斐あってか、僕はその勝負に勝利して準決勝進出を決めることができました。あのときその人が言葉をかけてくれなかったら、勝敗の結果はどうなってたでしょうか? それを考えると、感謝しても感謝し足りないくらいです。
後に、その番組で第2回のグランドチャンピオン大会が開催された際、今もって理由は謎なのですが自分もお呼ばれして出場させていただいたのですが、そのときにも1vs1対戦クイズの前にその人は自分に「緊張してませんか?」と声をかけてくれました。これらのことから推察するに、勝負前の自分はきっといつもいつもこわばった表情をしていたのでしょう。さぞ世話が焼けたことと思います。今もって申し訳ないです。


このエピソードに代表されるように、その人の思い出を振り返ってみると、いい思い出ばかりで、ヤな思い出が1つもありません。グランドチャンピオン大会で20人一斉に早押しクイズをする場面があったのですが、そのときに「みなさんからは現在自分が何点なのかは分からないでしょうから、正解するたびに私が『○○点になりました』って付け加えますからね」と気を遣ってくれたり、カメラの回ってないところでも常に我々をリラックスさせようといろいろと話しかけてくれたり。緊張のあまりか、はたまた若気の至りか、アホなリアクションばっかしてた自分なのに、その人はいつもそれをあったかーく受けとめてくれていました。本当に、駆け出しの頃の自分を「温かく包んで」くれていた人でした。


「今、私が冒されている病気はガンです」。その人の告白は衝撃でした。もう1度、今度はイロモノとしてではなく、キチンと結果を残してその人にコメントをいただけるように精進していた矢先の出来事でした。
そして、その告白から3か月ちょっと。
平成5年(1993年)の12月25日。
その人――逸見政孝さんは、多くの人に惜しまれながら、この世を去っていきました。


今でも、逸見さんの優しさがしのばれてなりません。
何かの折に緊張感にさいなまれていると、ふと逸見さんの「緊張してませんか?」という声が聞こえてくるような気がしてしまうのです。


今年は、逸見さんが亡くなって、十三回忌に当たります。



ちなみに、イヤだった司会者は…まあいいや。人気blogランキング

*1:慶応2年(1866年)。太陽暦に換算すれば1867年1月30日のことです。これまた「太陰暦太陽暦とのズレゆえに西暦換算が若干ズレる」例ですね。

*2:昭和元年(1926年)。…太陽暦です(笑)。

*3:当時フジテレビがあった河田町の社屋の玄関で1問問題を出題され、正解するとスタジオの中、不正解だと列の最後尾に回され、所定の通過者が出た段階で失格、というルールでした。このクイズ番組で、私は「玄関で門前払い5回」というありがたくない記録を保持していました。

*4:対戦者はそれぞれ電話ボックスのようなボックスに入れられ、ヘッドホンをつけて相手の声を聞こえない状態にさせられたうえで、出題される6問の問題を解かされます。そして、対戦相手より多く正解すれば勝利、準決勝進出となりました。