いろいろ考えさせられた…

昨日の日刊スポーツに。
15日に行われた京都競馬場第11競走・きさらぎ賞GIII)でスズノハミルトンに騎乗し、騎乗停止処分(2月21日、実効1日)*1を受けた藤田伸二騎手の手記が掲載されていました。


彼のブログにも、同じ文章が掲載されていたので(http://ameblo.jp/fujitashinji/day-20090216.html)。
全文を引用掲載します(改行は日刊スポーツに掲載されたものに合わせて一部修正しています。ただし本文中の語句の修正は一切していません)。

騎乗停止について


―競馬人―10人に言わせると、10人が同情してくれた。別に同情はいらないのだが…。対して―競馬役職員―は全面的にアウトである。なんなんだろう?この―素人―の集まりの裁決達!(心から思っている。)
今回のきさらぎ賞!ゲート出たあとグリグリの本命馬がハナを切った。自分の馬はスタートから口向きの悪さ出しはじめ、ほぼ制御不能状態だった。そうなれば結果どころか、どのように周りに迷惑かけない乗り方が大事か重視されてくる。大本命馬よりも外枠を引いていた俺は最高手段として逆に、ハナを奪う事も考えたが、確実に内側にいる他馬達に被害を加えてしまうと思ったので、ジッとしていた。(最終的には加害馬となったのだが…)結局ハナを切ってる馬が1.何倍という馬だけに、全国で馬券を買っているファンの皆さんに迷惑をかけない選択を選ばざるおえない。と言う事は、このレースにおいて俺を応援してくださるファンには申し訳ないないのだが、期待に答えられる状態ではなかったのが事実である。力一杯右に斜行する馬を必死になだめるじゃなく、力ずくでも抑えないと!という状態だった為、馬乗りとしては考えられないほど左の手綱を―両手―で引いていた!!そうでもしなければ、内ラチまで一気に飛び込んで行く勢いだったのだ。
トロールビデオを観てもらえばわかるだろう。体を鍛えいくら人間としてパワーがあろうとも、さすが本気の一馬力には到底かなわない。結果、確かに進路妨害という形になってしまったが決して―故意―ではない。もちろん邪魔をしてしまった二頭には大変申し訳ない気持ちで一杯だが、それ以上どうしようもない状態には変わりない。更にその二頭に騎乗していたアンカツさんにミユキ。プロの馬乗りとして理解してくれた。レース後二人が裁決達によばれ、しっかり状況を伝えてくれたのに最終結果は―騎乗停止―である。今年から制裁制度が変わったばかりなのに、ここまで理解がない人間の集まり、レースにも全くの無経験者、それより馬も満足に乗れない人種に、そこまでの権限を与えている―競馬会―に問題ありだ!いくら説明しようと権力においてすべて覆される今、何も通らない。だから俺は―そうです!妨害ですね!―と言われるがまま競馬場を後にした。これは紛れもなく言い訳でもない。今後同じようなケースが起こる事もあるだろう。だか、今のままでは騎手だけでなく、ファンも納得しないだろう。何度も言うが言い訳でなくもう一度同じ場面に出くわしても俺はこうしか乗れなかっただろう。その辺をもっと考慮して、是非とも競馬騎乗経験者に清く正しいジャッジをして頂きたいものだ。
今回の騎乗停止。迷惑かけた馬達と馬主さん、騎手、厩舎関係者の皆さんには心から申し訳ないと思っています。少なくとも自分の馬券を買って頂いたファンはもちろんです。けど周りから何を言われようが、どう感じ取られようが結構ですが、この度の騎乗停止という現実は―死ぬまで納得いかないでしょう。―どう思われようがいいんです。今回だけは一人でも多くのファンの皆さんに伝えなくてはいけないと思ったのでぺンを持ちました。二度と同じ思いは他の仲間にはさせたくない。―競馬人―の理解力。―競馬役職員―の無能な現実を沢山の方々に知って頂きたい。
騎乗停止処分翌日、深夜3時24分
藤田 伸二

…文章は多少矯激に走っている印象なくもないものの。
言いたいことは概ね理解できます。


藤田伸二という騎手は。
そのキャラクターで誤解を受けることも少なくないものの。
少なくとも、馬上でのスタンスにおいては、誠実そのもの。
腕っぷしも頼りになる騎手です。
「たとえ未勝利戦でシンガリを走っていたとしても、馬をまっすぐ走らせて、1つでも上の着順を取るように努力すれば、自分はもっともっとうまくなる」という彼の言葉が、それを表しています。


また。
彼は危険な騎乗が極端に少ない騎手であることは、競馬ファンなら周知のところです。
2004年には年間制裁点0で「特別模範騎手賞」を受賞しています。
それは、ラフプレーを嫌う彼のスタイルもさることながら、騎手としての高い技術に裏打ちされたものであることは言うまでもありません。


JRAのホームページに掲載されている、きさらぎ賞のパトロールフィルムを見たところ。
藤田騎手、本当に「左の手綱を―両手―で引いて」、懸命にウマを御そうとしていました。
彼が己のプライドをかなぐり捨ててまで必死に乗っているのが、痛いほど伝わってくる映像でした。


JRAサイドとしては。
被害馬の関係者や、馬券を買っていたファンの体面を考えると、実効1日でも処分を下さないわけにはいかなかったのでしょうが。
これだけの努力を藤田騎手がしていたという点については、どのように考えているのでしょうか?


被害を受けた幸英明騎手や安藤勝己騎手は、理解を示していたといいます。
武豊騎手の「(藤田の騎乗は)むしろファインプレー」というコメントも報道されています。


藤田騎手が言うように。
馬上の立場にならないと(我々ファンも含めて)理解し得ない何かが、厳然と存在しているのではないでしょうか?
「何度も言うが言い訳でなくもう一度同じ場面に出くわしても俺はこうしか乗れなかっただろう」という彼の言葉は、悲痛以外の何物でもありません。


どうにも、JRAの裁定は、場当たり的、その場しのぎのものであるという印象も拭い去れません。
今回のケースが「走行妨害」であるならば(被害馬先着のため、降着はありませんでしたが)、昨年のオークスでのトールポピーは何だったのでしょうか?
マイネレーツェルレジネッタ、オディール、ソーマジック…と何頭も“被害”を受けていたではないですか*2
不透明感だけが残らずにはいられません。


納得のいかない処分ではあったでしょうが。
どうか、男・藤田伸二には、今までと変わらぬ好騎乗の数々を見せてもらえるよう、期待せずにはいられません。


★★馬券勝負ではしばしば痛い目に遭ってるんですけどね、彼には。人気blogランキング★★

*1:馬の癖、発走直後の躓きなど主因が偶発的な「走行妨害」については、騎手の過失の程度が低いとして、通常の実効4日間の騎乗停止ではなく1日の騎乗停止処分が下されます。昨年末までは「実効2日間」だったのが、今年からさらに短縮されています。

*2:この件に関しては、こちら(http://d.hatena.ne.jp/CasparBartholin/20080526#p1)で語っているので、ご参照ください。