「彼」のことを思い出して、ちょっとだけ泣けてきた。

で。
勝ったスズカフェニックスについてです。


いやおみそれしました。こんなに悪い馬場でもあんなに切れる脚使えるとは思いもしませんでした。「道悪で持ち味出せない」とハナから決めてかかったのが全ての敗因ですね。
あの瞬発力、東京のマイルではさらに活きてくると思います。「安田記念に直行」らしいので、引き続き注目です。


で。
スズカフェニックスが勝った後。
「…ああ、してやられたなあ」と思って、何気なしに競馬欄の生産牧場の項を見て。


このウマが。
稲原牧場の生産馬だということを初めて知りました。


武豊騎手。
橋田満調教師。
永井啓弐オーナー。


この組み合わせまでは分かっていたのですが。
まさか、生産牧場まで「彼」と一緒だったなんて。


あの「府中の森の悪夢」からもう9年ですか。
本当に時が流れるのは早いものですね。


一昨年から昨年にかけて。
我々は、「ディープインパクト」という、稀代の名馬の走りに、名前のとおり衝撃を受け、そして感銘を受けてきました。
「飛ぶ」と称された、彼の鋭い追い込みの数々に。


それでも。
「彼」がもし生きていたら…。
そんなほんの小さな思いを、心の片隅にいつまでも持ち続ける自分がいたのも、また事実でした。


他のウマにとっての「超ハイペース」が、彼にとって「マイペース」でした。
武豊をして「そりゃ楽しいですよ、彼に乗っていると。他の馬はみんなついてこられないんですから」と言わしめた、「逃げて差す」と評された「彼」の卓越したスピード能力。
前半1,000mを57秒7でブッ飛ばしたのに、エルコンドルパサーグラスワンダーといった、後に数々の栄光を掴むことになる名馬に「影さえも踏ませず」に完勝した毎日王冠など、今思い出しても鳥肌モノです。
こんな勝ち方をするウマなんて、あと50年は出てこないかもしれません。「彼より強い馬」なら出てくるかもしれませんが(ディープインパクトだってそうかもしれませんが…)、「彼より速い馬」となると…どうなんでしょう。


そう思って。
「彼」のことを思いしんみりしていたら。
フジテレビの競馬中継番組で司会を務めている福原直英アナウンサーも、同じことを思っていたようで。
「スズカの勝負服、サンデーサイレンス産駒、栗毛、そして稲原牧場。サイレンススズカとは全く違ったタイプの馬ですけれど、新しいヒーローが出てきました」。
彼は本当に競馬が好きなのが伝わってくるアナウンサーで、こういうちょっとしたコメントに「競馬愛」を感じられるので好感度大です。彼のこの一言にまたしんみりしました。


そうです。
サイレンススズカはもういないけれど。
稲原牧場のみなさんは、あのときの悲しさを乗り越えて、再び生産馬でGIをゲットしました。
その喜びたるや、如何ばかりだったことでしょう。


そして。
武豊騎手、橋田満調教師、永井啓弐オーナーの感慨もまた。


「彼」が逝った後、永井オーナーがポツリと残されたという言葉を今でも忘れることができません。
「いつも脳裏に浮かぶのは、やさしそうなあの顔とピカピカに光って金色に輝いていたあの毛艶……。背景なんかない、あの馬の姿です。あの子は私にいろいろものをくれましたが、とうとう最後にひどい悲しみまでくれました。そんなもの、くれなくてもいいのにねぇ……」
(『サイレンススズカ無垢なる疾走』より)
サイレンススズカ―無垢なる疾走 (ザ・マサダ競馬BOOKS)


今回。
スズカフェニックスが勝ちを収めたことで。
「もう、いいんじゃない?」と「上」から「彼」に言われたような気がしました。


確かに。
「彼」とは全く違った脚質ではあるけれど。
それでも、スズカフェニックスの勝利を見て、もう1度「彼」の走りを思い出すことができたのは、幸せなことでした。


奇しくも。
「不死鳥」をその名に戴くスズカフェニックスによって。
「彼」の姿が、自分の脳裏にはっきりと甦ってくれたんだと思っています。


★★いずれ1度、サイレンススズカの墓参に行きたいと思っています。人気blogランキング★★