勇ましきは雄々しきことぞ

新撰組についての問題は1回お休み。本日は別の話題にて。


機会があって『金槐和歌集』ちらほらと読んでます。『金槐和歌集』、別名を『鎌倉右大臣家集』といい*1源実朝が詠んだ約700首もの短歌が収められた私家集です。
実朝は割と万葉調の詠みぶりを好む傾向があったらしく*2、勇壮な作風の歌が数多く残されています。以前に語ったとおり自分はどちらかというと古今調の短歌のほうが好みなのですが(http://d.hatena.ne.jp/CasparBartholin/20050621#p1)、実朝の場合は「本人はどちらかというと線が細そうなイメージあるのに、どうしてこんなに歌は勇ましいんだろ?」というギャップが個人的にはむしろグーです。

大海の磯もとどろに寄する波われてくだけて裂けて散るかも

この歌、なんか知らないけど妙にエネルギッシュですよね。なにしろ、「割れて」「砕けて」「裂けて」「散る」の4連発ですから(笑)。東映の映画のオープニング真っ青の激しい波が押し寄せて白く大きく弾ける様子がまぶたの裏に浮かぶような力作です。
文法的にちょこっとだけ補足しておくと、「かも」は上代奈良時代)に使われていた詠嘆の終助詞。このあたりが実朝版「ますらをぶり」全開…って部分ですかね。


こんな歌も。

山はさけ海はあせなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも

なにしろ、「山は裂け」「海は浅せなむ」ですから、どこまでいっちゃうんだろ、このヒト…と心配になるぐらいの(笑)スケールでっかい歌です。「君にふた心わがあらめやも」とあるのは、恋心ではなく、和歌の師匠であった後鳥羽上皇への熱き忠誠心を詠んだと今日解釈するのが一般的です*3
余談ですが、私、まだ幼かりし頃、この歌をパクって「口はさけ鼻はあせなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも」とつぶやいたりしてました。当時小学4年生。…圧倒的にヘンなガキだったようです(笑)。


そういえば「口裂け女」なんてのもひと頃ブームになったな。人気blogランキング

*1:「金槐」という書名は、「金」は「鎌倉」の「鎌」の偏、「槐」は「大臣」を表す唐名官職「槐門」にちなむと言われています。

*2:とはいうものの、古今調の繊細な作品が全くないわけでもありません。

*3:ところが、彼が後鳥羽上皇にベッタリと傾倒していたかというと…あながちそうでもないようです。朝廷と幕府の間で所領問題などのいざこざが起こると、彼は幕府の代表としてしばしば朝廷に抗議を申し入れていたそうです。作家の永井路子さんは、それを踏まえて、この歌について「歌の上では朝廷の実力者後鳥羽上皇とは親しかったが、それと政治上のことは別だったのか。(中略)戦時中にさわがれたような純粋な忠君愛国のほとばしりでないことは明らかだが、これを彼の矛盾した立場を詠んだ苦悩の歌とみるべきか、あるいは、抗議を申しこんだことに対する社交的ないいわけの歌と見るかによって、評価の分かれるところであろう」と述べています(「頼家と実朝」 日本歴史シリーズ6『鎌倉武士』(世界文化社)より)。