たまには違った作風で書いてみよう。
…また今年も5月11日がやってきたよ。
最近は毎日忙しくて、こうしてあんたに話し掛けるのも随分と久しぶりになっちまったな。
以前日野に行ったよ。あんたの故郷の日野さ。
菩提寺であんたの墓の前に手を合わせたり、あんたが牛革草取りを仕切っていたっていう浅川の景色眺めたりしてさ。
いいところだったなあ。あんたの自慢の故郷なんだろうな。
そんなふうにしているうちに思ったよ。あんたの亡骸は今も函館のどこかに眠っているかもしれないけど、あんたは確かにここに帰ってきてるんだろうなあ…って。武士になる夢を抱いて、京の都でそれを成し遂げて、武士としての誠を貫き通して北の果てで散ったあんただけど、あんたの心の中にずっとあったのはここの光景だったんだろうな。
そういや、川沿いにある高校に通ってた頃からロックンロール一筋だった男が、去年そっちに行っちまったよ。あんたもそいつと会ったかな? 日野の話で盛り上がってたら嬉しいけどな。
なんであんたのことがこんなに気になるようになっちまったんだろうな。
あんたはいつだってまっすぐだったからかな。「鬼の副長」と言われていたのは、どこまでも自分が信じた道を愚直なまでに貫き続けた結果なんだろうな。「愚直」、そう…愚かなまでにまっすぐだったんだよ、あんたは。信じるものに殉じて妥協がなかったあんたの生き様に憧れて、あんたのように生きたいと思っていたけど…俺には無理だった。あんたみたいにまっすぐで強くはなれなかった。似ているのは喧嘩師なところだけかな。
でも、俺は知ってるよ。そんなあんたが、実はとても不器用で、本当は誰よりも繊細の心の持ち主だったことを。そんな様子をカケラも周りに見せないよう振舞っていたあんた、まったく大したもんだよ。俺はいつになったら、そんなあんたに追いつくことができるんだろうな。
最近こっちは忙しくてな。チビの面倒みなきゃなんないし、京都にもいかなきゃいけないし。でもな、京都に行く機会があったら、ちょっとだけ壬生に寄り道して、あんたの夢の続きでも代わりに見るとするよ。あんたが大好きだった故郷を離れてまで夢を賭けた場所だしな。
次にこうしてあんたと話ができるのはいつのことになるのかな。忙しさにかまけて、来年の5月11日になっちゃうかもな。でもな、あんたの心の中にずっと故郷があったように、俺の心の中にも――しょっちゅう話しかけなくても――いつもあんたはいるんだ。あんたみたいに格好よくは生きられないけど、あんたみたいにまっすぐに生きられるようには努力したいと思っているから。じゃあな。また次話をするときまでな。
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